士業の先生とコーチング・親和性は?

決断コーチの、井上です。

先日、ある士業の先生がおっしゃいました。

「わたしのような先生業に、コーチングのスキルというのは役に立つんでしょうか?」

とても興味深いご質問だと思いましたので
わたしなりの回答をまとめてみたいと思います。

「お客様が求めているもの」は何か

まずは、お仕事とその属性から見て行きましょう。

弁護士、会計士、司法書士、社会保険労務士など
士業の先生のところに来る人は
専門知識が無いため、自分では手に負えない
問題を解決して欲しい

そんなクライアント相手に
「コーチとして」関わる必要はありません。

しかし、コーチングを学ぶことで
クライアントとの関係構築が
スムーズになることは考えられます。

そもそも、士業の先生の助けが必要な人は
先生の「腕」がどれくらいすごいのか
(あるいはすごくないのか)
自身では判断ができないものです。

そんな人が
「この先生にお任せしたい」と思うのは
人間性や信頼感によるところが大きい。

結局のところ、クライアントさんも
いろんな悩みや不安を抱えた人間です。

先生のところに来る一時的・直接的な理由は
専門分野の問題解決ですが、
二次的・潜在的には先生との関係性から
安心感や肯定感を得たい
から、です。

そう考えると、まずは
初期の段階で自分を信頼してもらうことが
その後のビジネス展開に非常に重要です。

コーチングの手法を適宜取り入れることで
そうした面の強化・改善が期待できます。

また、士業の先生というのは
店頭での「一期一会」の接客業とは違い、
クライアントさんとのお付き合いが
長く、深くなりがちな職業です。

関係性が上手く機能していれば
お付き合いが長く深くなるほど
お互いにとってメリットがあります。

よい関係性を築き、それを維持する。
もっと言えば、お付き合いするほどに
お互いの成長を感じられることで
さらに理想の関係になっていけるでしょう。

そのためには、コーチングの手法というのは
まさにぴったりと言えます。

コーチングの手法とは?

話を進める前に、
「コーチングのスキル」と
「コーチングの手法」の
ここでの定義を少し明確にしておきます。

コーチングのスキル(技法)とは
「傾聴」とか「質問」など
具体的なテクニックのことを想定しています。

一方、コーチングの手法とは
より本質的な考え方とか
アプローチの仕方のことです。

手法の具体的手段がスキル、というイメージです。

そのコーチングの手法ですが、
似て非なるもの、コンサルと比較してみましょう。

コンサルというのは、
専門的な知識を持った人が
専門的な立場から意見や助言をして
クライアントを成功へ導くサポートです。

どちらも、最初は
クライアントの現状を把握するために
ヒアリングから始まります。

その後、コンサルは自分の持っている
専門知識をベースに情報提供をします。

クライアント側からすると
新しい外部情報を教えてもらう
「インプット」というイメージです。

対するコーチングは
外部からの情報を持ち込むのではなく
クライアント自身から出て来た情報を
別の視点から見るとこうなるよ、と伝えます。

これがフィードバックで、
他者の視点を持ち込むことで
クライアントは自分自身を
より客観的に見ることができるようになります。

次に、出て来た情報をもとに
解決策を模索していくのですが、
コンサルはまさにアドバイス。

お医者さんが診断した後
お薬を処方したり手術をするように、
こうするのがいいですよ、と
提案をします。

しかしコーチングでは
「どうしたいか、するべきか」は
クライアントに決めてもらいます。

そしてゴール達成までの行動期間中
コンサルは専門的アドバイスをする立場、
コーチはクライアントの状況を見ながら
バランスを管理する立場となります。

コンサルは指導、ティーチングになりますが
コーチングはクライアントの自主性を
最大限に発揮してもらうためのサポートです。

ただ実際は、コーチやコーチングという言葉は
いろいろなところで
いろんな定義で使われています。

なので、必ずしもすべてのコーチが
このような定義でコーチングなるものを
提供している、というわけではありません。

それでも「ティーチング」と「コーチング」の
違いを分かりやすく、かつ狭義の意味で言うと
こんな感じになるかな、と思います。

わたし自身も、状況に応じて
コーチングとコンサルや指導を
意図的に使い分けています。

北米のエグゼクティブコーチなども
コンサルとコーチ、両方の立場から
関わっている人が多いです。

コーチングが関係づくりに有効な理由

そんなコーチングですが、
なぜクライアントとの関係作りに
有効なのでしょうか。

それは、人は本質的には
「自分の人生、自分で選びたい」
からじゃないか、と。

難しい言い方をすれば、
誰でも「人としての尊厳」を欲する。

あなたは、自分のことなのに
勝手に誰かに決めつけられると、
悲しかったり、腹が立ったり
ネガティブな気持ちになりませんか。

コーチングというのは、相手のそんな思い
人として尊重されたい、という思いを
とことん大切にしようとするから、
人間関係に有効なのかなと感じます。

コーチが、自分自身ではなく
クライアントに、
焦点を100%合わせるからこそ
クライアントの行動が促進されると思うのです。

有名な「傾聴」も、

「人の話を全力で聞いているわたし、素晴らしい」

とか

「一所懸命聞かなくては、わたし!」

なんていう意識になっていたら、
どんなにブンブン頭を振ってうなずいても
どんなに心を込めて相槌を打っても
意識は相手ではなく、自分に向いています。

話をしている相手からすれば
「聞いてもらっていない」
という感覚になってしまうのです。

この辺、スポーツのトレーニングと
似ているかもしれません。

練習では、フォームやらタイミングなど
色々と考えながら試行錯誤します。
しかし、よいパフォーマンスができるのは
そんな「思考」に囚われていない時。

傾聴で言えば、普段からトレーニングはしつつも
ちゃんとできている時は
「傾聴している、できている」
などという自意識がありません。

ちなみに、かなりの経験を積んだコーチでも
意識が自分に向いてしまうことが
起こったりもしますので、
たゆみない修練が必要だなと感じます。

先生も使えるコーチング的な考え方

わたしはプロのコーチとして
クライアントさんとの共同作業をするわけですが、
その際、次の3つを
自分の役割・責任と思っています。

①安心して話せる場をつくる責任
②限られた時間の有効活用を促す責任
③クライアントの行動を促進する責任

①は心理的安全・安心の確保、
ということであり、これは
人間が絡むことであればすべてにおいて
言えることではないかと思います。

安全である、と感じると
人は本音を話してくれますし、
そこから新しい事実が見えてきます。

事実が見えなければ、
問題はなかなか解決しないもの。

だからこそ、この最初のステップは
何よりも大切だと思っています。

なので、先生であっても
大いに学び、大いに活用できることではないか
と思います。

②の時間管理、時間の有効活用は
プロであれば当然、求められることでしょう。

例えば、相手の話をただひたすら聞くことが
本当にプロとして求められていることかどうか。

もちろん、心理カウンセリングのように
それがメインとなるお仕事もあるかと思います。

しかし、もしもクライアントの求めているものが
何らかの結果・成果物であるならば、
話されている内容の重要度を見極めて
展開を調整するのも、プロの仕事。

コーチングは基本的に
「ゴールありき」のプロセスなので、
話が迷走し出したらゴールを再確認し
時間管理をするのもコーチの責任です。

何らかの問題解決を求めて
先生のところにくるクライアントさんに対しても
そうした時間管理をしてあげることができると思います。

そして③クライアントの行動促進ですが、
問題の内容や解決策によっては
クライアント自身の行動が重要な場合も
あるのではないでしょうか。

コーチングでよく使われる
行動を促してあげるためのスキルが
そんな時に、役に立つはずです。

コーチングは万能の薬ではない

最後に、当然と言えば当然のことですが
コーチングはすべての人間関係における答えだ、
というつもりはないという点について
触れておきます。

人は本質的に見て、2つのタイプがあります。

ひとつは、芯は強いが器は狭いタイプ。
もうひとつは、芯はもろいが器は広いタイプです。

人は、この2つのどちらかとして生まれて来ます。
そして、人生経験を通して
「芯を強め、器を広げる」
それが、人間として成長するということです。

これを前提とした場合、わたしが考える
上で書いているようなコーチングには

「器の広さ」

が、優先的に必要です。

その上で、プロとしてやっていくには
芯の強さも必要になるので、
そこも養っていくことになります。

つまり、タイプとしては本質的に
芯はもろいが器が広い人の方が
向いている、ということになります。

もともと芯が強く、器は狭めの人は
コーチというよりコンサルや
指導者的な立ち位置を取るほうが
向いているかもしれません。

人の意見を受け止め、それに反応するより
自分自身のアイデアをどんどん出す方が
本来の資質に適っているからです。

もちろん、そうする中で
嫌でも人との関わりは出てきますから、
そこで器を広げる修行もする、という感じでしょうか。

どちらがいい悪いではなく、
自分に合ったやり方で自分らしさを発揮するのが
結局は全体にとっても最適である
ということだと思います。

自分の特性を自覚してみることで
自分の現在地や方向性と、今後の改善点の
ヒントが見えて来るかもしれません。

士業の先生を始め
人と関わるお仕事をされている方に
少しでもお役に立てば嬉しく思います。


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